~『毒笑小説』7つのポイント +5~
『毒笑小説』は、東野圭吾35作目の作品。
「〇笑小説」シリーズ第2弾となるユーモア短編集です。
相変わらずのブラックユーモア。
全部で12編の作品が収録されています。
巻末には東野圭吾と京極夏彦の特別対談つき。
両者の笑いに対する考え方や、『秘密』の秘密についても語られています。
塾にお稽古に家庭教師にと、VIPなみに忙しい孫。
何とかゆっくり会えないものかという祖父の訴えを聞いて、麻雀仲間の爺さんたちが“妙案”を思いつく・・・。
前代未聞の誘拐事件を扱った「誘拐天国」をはじめ、毒のある可笑しさに満ちた傑作が1ダース!
名作『怪笑小説』に引き続いて、ブラックなお笑いを極めた、会心の短編集。
「笑い」追及の同志、京極夏彦との特別対談つき。
さあ、『毒笑小説』について語りましょう。
今回は、全部で12編あるので、いつもの7つ+5です。
1 誘拐天国
福富健作は、塾や習い事で忙しい孫とゆっくり遊べていないことがたった1つの心残りだった。
それを麻雀仲間に打ち明けると、銭箱大吉と宝船満太郎は、孫の誘拐計画を提案する。
これまで様々なことをやってきた福富だが、誘拐だけはやったことがない。
権力・財力を駆使してとてつもないスケールの誘拐をやってのける老人たち。
世間一般の身代金の相場が1億と聞き、ドルだと思ったら円だと分かり激高する。
それは誘拐された孫の母親も同様。
1億円程度なら小銭をかき集めればすぐに用意できるとのこと。
このスケールが話を面白くしている。
親の指示を受けなければ何もできない子供たちを痛烈に皮肉った作品。
老人たちの企てた誘拐計画がもたらす結末とは・・・。
2 エンジェル
天使そっくりの不思議な生物が発見された。
その見た目から「エンジェル」と名付けられたその生物は、様々なブームを巻き起こす。
最初は一般公開され混雑を招き、それがだんだんとペット化していき、ビニールを食べる「エンジェル」の特性から不燃物処理として人々の生活に入り込んでいき、食べたら美味しいことが分かると料理に使われ・・・。
1つ1つのブームが人間の愚かさを風刺しており、環境問題についても言及している。
3 手作りマダム
富岡夫人が招待する月1回のティーパーティーはニュータウンに住む主婦たちにとって憂鬱で苦痛な時間だった。
夫人に一切の悪気がないだけに振る舞いにも気を遣う。
夫人が作るものに対する評価の表現がだんだんとエスカレートしていくところが面白い。
クッキーやシフォンケーキ、ランチョンマットにソーセージ、スパゲッティに絵画など、夫人は様々なものを作り、主婦たちにお裾分けする。
そして次に夫人が作ったものは・・・。
主婦たちの苦悩が気の毒で同情するが、ストーリーのオチは・・・。
4 マニュアル警察
役所などのマニュアルを痛烈に批判した作品。
殺人を犯し自首するも、マニュアルによりなかなか逮捕されない。
自首しに来た男に対し、「死体を見つけたのはあなたですか」という警察の質問には思わず失笑してしまう。
そして、自首しに来た男に対し、「まことに申し上げにくいことですが、奥さんが亡くなられました」と伝える警察。
この後も同じようなやり取りが続く。
好む意味で不毛なやり取りが見ていて面白いが、実際その場にいたらどれほどのストレスになることか。
自首をしに来た男のイライラが面白おかしく伝わってくる。
5 ホームアローンじいさん
家族全員が出かけることを楽しみにしていたじいさん。
その理由は、孫が隠し持つAVが見たかったから。
慣れない家電と格闘し、試行錯誤しながらAVを見ようとするがなかなか上手く事は運ばない。
そんな時に家に忍び込んできたコソ泥。
様々な偶然が重なり、事態は思わぬ方向へ。
ラストシーンの後に繰り広げられるであろう場面を想像すると気まずい・・・。
6 花婿人形
人から教わったことしかできない人間を痛烈に皮肉った作品。
何でも母親に指示されないと動けない旧家の跡取り息子。
母親の選んだ相手と結婚することになるが、どうしても聞きたいことがあった。
聞きたいことが聞けないうちに式は始まってしまい・・・。
最後に繰り広げられる思わぬ悲劇!
7 女流作家
売れっ子の女流作家が妊娠を理由に連載の休載を申し出る。
産後、仕事に復帰した彼女は、以前よりも締め切りを守るようになった。
しかし一度も姿を見せなくなった。
編集者がこっそり彼女の家を覗くと、確かに彼女は中にいるようだが・・・。
どうも釈然としない編集者がやがて知った驚愕の事実とは・・・。
8 殺意取扱説明書
偶然古本屋で手に入れた「殺意取扱説明書」。
実践するにはうってつけの相手がいる。
恋人を奪った大学時代からの友人だ。
説明書に従って殺意の確認をしていくが、もともと説明書の類は読むのが苦手。
色々確認しながら、いざ殺意を実行に写そうとするが・・・。
果たして抱いた殺意通り思いは実現するのだろうか。
9 つぐない
全く経験のない初老の男性にピアノを教えることになった美穂。
あまりにも懸命にピアノのレッスンに励むその男性には、どうしても償いたいある人物がいたのだった。
本来は笑える話にしたかったこのストーリー。
しかし、その内容はとても切ないもの。
『毒笑小説』の中では一際異彩を放っているのではないだろうか。
つまりは、毒も笑もない、じわっと感動するお話。
10 栄光の証言
話題を見つけることが苦手で誰からも注目されず話しかけられもしない正木孝三。
そんな彼が、酔って帰ったある日、路地で喧嘩をしている2人組を見かけた。
そしてその翌日、喧嘩をしていた1人の男性が殺害されていたのが発見された。
事件の唯一の目撃者となった孝三は、今までに経験したことがないほど注目されるようになる。
そしてその証言内容がどんどんとエスカレートしていき・・・。
事件の証言だけが栄光である男の寂しい話。
11 本格推理関連グッズ鑑定ショー
父から託された長い2本の木の棒。
これこそは名探偵・天下一大五郎が解決した「壁神家殺人事件」に関連した重要な品だった。
その棒を鑑定番組で鑑定してもらうが、評価額はまさかの0円。
その理由には驚くべき事実が隠されていた。
『名探偵の掟』の天下一大五郎にちなんだ事件を扱った作品。
ちょっとした謎解きになっているところも面白い。
12 誘拐電話網
ある日カワシマに突然かかってきた、誘拐犯を名乗る人物から身代金を要求する変な電話。
しかしカワシマは結婚もしていないし子供もいない。
犯人によると、誘拐した子供の親に身代金を要求するのは忍びないので、無作為に選んだ誰かに金を払わせることにしたと言う。
自分には全く関係のない話だが、犯人からの要求を無視して誘拐された子供に何かあったら気分が悪い。
そう考えたカワシマがとった行動とは・・・。