~『天空の蜂』7つのポイント~
『天空の蜂』は東野圭吾32作目の作品。
600ページを超えるこの壮大なクライシスサスペンス小説には、作者の原発に対する思いや考えが綴られているのではないかと感じます。
このパニックを関係者たちがどのようにクリアしていくのか、警察はこの騒動の犯人にたどり着けるのか、そして原発とは一体どのような影響を我々におよぼしているのか、見どころがたくさんある作品です。
奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。
無人操縦でホバリングしているのは、稼働空の原子力発電所の真上。
日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非常の決断とは。
そしてヘリの燃料が尽きるとき・・・。
驚愕のクライシス、圧倒的な緊迫感で魅了する傑作サスペンス。
さあ、『天空の蜂』について語りましょう。
1 あらすじ
錦重工業小牧工場試験飛行場の第三格納庫から、軍用の巨大ヘリコプター「ビッグB」が「天空の蜂」を名乗るテロリストに制御を奪取された。
「ビッグB」は大量の爆薬を満載したまま、テロリストの遠隔操縦によって
福井県の高速増殖炉「新陽」の上空へ飛び去った。
テロリストは日本政府に対し、「新陽」以外の稼働中の原発を止めないと「ビッグB」を「新陽」の上に墜落させると脅迫する。
しかも「ビッグB」の中には見学に来た子供が乗ったまま取り残されている。
「ビッグB」が上空にホバリングしていられる時間は8時間。
自衛隊は、テロリストから難解な条件を課されている中、機内にいる子供を救出するという任務に挑む。
一方、原発の安全神話を提唱し続けている政府は、テロリストからの要求にどのように対応するか悩む。
そして警察はテロリストの正体に迫ろうとする。
2 登場人物
湯原一彰
錦重工業航空機事業本部勤務。「ビッグB」の開発責任者。
山下
錦重工業航空機事業本部勤務。湯原の同僚。
山下恵太
山下の息子。奪取された「ビッグB」の中に取り残される。
赤嶺淳子 錦重工業勤務。
中塚一実 高速増殖炉「新陽」発電所所長。
金山滋 福井県知事。
室伏周吉 福井県警刑事。
上条孝正 航空自衛隊員。
三島幸一 錦重工業原子力技術者。
雑賀勲 元自衛隊員。
3 子供救出作戦
「ビッグB」のお披露目会に見学に来ていた山下恵太は、ほんの好奇心からヘリの中に忍び込んでしまった。
そのときに「ビッグB」は犯人に奪取されてしまう。
機内に取り残された恵太を救うため、自衛隊が動き出す。
しかし犯人からは様々な困難な要求がなされていた。
犯人の出した条件を破ることなく、どのように恵太を救出するのか、ハラハラする場面の1つである。
4 犯人側の視点
比較的早い段階から犯人の正体は分かる。
首謀者は2人。
そのうち1人は行方不明で、もう1人は騒動の真っ只中に呼び出された。
恵太が「ビッグB」に乗っているなど、犯人にとっては予想外のことも起こるが、あらかじめセットしておいた計画通りに事は進んでいく。
犯人と関係者が接触するシーンなどは、どこで犯人の綻びが出てくるのかドキドキする。
犯人はどのようにしてこの計画を実行したのだろうか。
そして、なぜ犯人はこのようなテロ行為の実行に踏み切ったのだろうk。
そこには犯人側の悲しい理由が存在していた。
5 原発
この作品には、作者・東野圭吾の原発に対する考え方、思いが随所に書かれている。
原発については、身近に考えている人、深刻な問題として捉えている人もいるだろうが、多くの人は日頃考えることのないものではないだろうか。
原発が危険なものであるということは何となくは分かっていても、自分には無縁なこと、無いと不便なもの、という意識が支配的ではないかと思う。
この作品では、原発の原理や仕組み、そこにはらんでいる危険とその回避方法など技術的なことがたくさん書かれている。
また、過去の原発事故などを例に挙げ、原発の危険性を読者に伝えている。
さらに、原発反対派の意見などもところどころで紹介されている。
反面、原発の重要性もしっかりと書かれており、原発が止まった場合に国民にどのような影響が出るかの描写もされている。
原発の肯定派と否定派、そのどちらにも属しているわけではないが、もっと多くの人が原発について知り意識を高めるべきと啓蒙している作品である。
原発について基本的な知識を得たい人、原発に興味がある人、科学技術が好きな人にとっては、教材として十分な役割を果たすに違いない。
6 犯人に迫る警察
この作品はいくつもの顔を持った作品である。
ヘリに取り残された子供を救出するアクション的な側面。
原発について啓蒙する書としての側面。
ヘリの墜落を阻止しようと奔走する人たちのドキュメンタリー的な側面。
そして事件の真相を見抜き犯人に迫る警察というサスペンス作品としての側面。
推理小説が好きな人ならば、やはり警察がどのような手掛かりを掴み、犯人と対峙していくのかというところに興味が惹かれるはずだ。
そしてこれだけ大々的なテロ行動を行った犯人の動機や背景はどのようなものか、きになってしまうであろう。
ヘリが墜落するまでのわずか8時間の間に、警察がどのような調査を行い、どのような人に話を聞いて、どのように推理を組み立てていくのか。
読者側は犯人が分かっているため、警察の捜査にやきもきしてしまう。
徐々に真相に近づいていく警察の姿も見どころの1つだ。
7 総評
正直な感想は「難しい」ということ。
原発に関心がある人、ヘリなど技術的なことに興味がある人にとっては、様々な知識を得ることができる有難い作品だとは思うが。
完全文系の推理小説好きにはちょっと重い。
600ページを超えるボリュームのある大作だが、知識面・技術面について書かれている部分については途中だれてしまうか、読み飛ばしてしまう読者も少なくないのではないか。
600ページがっつりと作品に向かい合うもよし、難しいところはさらっと読み進めるもよし、楽しみ方は読者それぞれである。
しかし、犯人が犯行に至った動機については、やはり考えさせられるところがある。
そう考えると、少ししんどいかもしれないがある程度しっかり読んだ方が、読後の感じ方も違うだろう。
ヘリの開発者、自衛隊、警察、政府、発電所、原発関係者、そして犯人など、登場人物もかなり多いこの作品。
どの人物が重要な人物なのか、しっかり把握できないと頭の中も混乱する。
取捨選択しながら読んでいくという、読書のテクニックが必要かもしれない。