~『名探偵の呪縛』のポイント7つ~
『名探偵の呪縛』は、東野圭吾37作目の作品。
衝撃的な結末を迎えた『名探偵の掟』ですが、そこで登場した天下一大五郎が再び登場します。
しかし設定は全くの別物。
前作は連作短編でしたが今作は長編です。
図書館を訪れた「私」は、いつの間にか別世界に迷い込み、探偵天下一になっていた。
次々起こる怪事件。
だが何かがおかしい。
じつはそこは、「本格推理」という概念の存在しない街だったのだ。
この街を作った者の正体は?
そして街にかけられた呪いとは何なのか。
『名探偵の掟』の主人公が長編で再登場。
さあ、『名探偵の呪縛』について語りましょう。
1 あらすじ
小説家である「私」はある日図書館を訪れた。
しかし使い慣れているはずの図書館の中で迷ってしまう。
謎の男の後をついていき辿り着いた先は、全くの別世界だった。
その世界で「私」を待っていたのは、市長の娘・ミドリだった。
「私」はこの世界では「天下一大五郎」になっており、そこで起こる数々の事件の解決にあたるのだった。
果たしてこの街の秘密とは。
過去の無いこの街が存在する意味とは。
本格推理という概念がないこの街で、探偵天下一の推理が冴えわたる。
2 登場人物
天下一大五郎
探偵。この世界に迷い込み、探偵として事件の解決にあたる。
日野
墓礼路市の市長。記念館保存委員会のメンバー。天下一に記念館盗掘事件の解決を依頼する。
ミドリ
日野市長の娘。
月村博士
私立大学勤務。記念館保存委員会のリーダーで記念館館長。
管理人 記念館の門番
水島雄一郎 資産家。記念館保存委員会メンバー。
火田俊介 作家。記念館保存委員会メンバー。
木部政文 新聞社社主。記念館保存委員会メンバー。
金子和彦 文化人類学者。記念館保存委員会メンバー。
土井直美 科学ジャーナリスト。記念館保存委員会メンバー。
大河原番三 県警警部。
3 記念館
ミドリに連れられて墓礼路市長の日野と会った天下一。
この街を作ったクリエイターと呼ばれる人物の家と言われている記念館。
そこで発見された地下室にはミイラとなった何者かの死体があり、そして何かが盗まれた様子。
一体何が盗まれたのかは分からない。
地下室やミイラの発見はまだ公表されていないため警察に捜査を依頼することもできないという。
地下室やミイラのことを知っているのは記念館保存委員会のメンバー7人と記念館の管理人と地下室を発見した職人とミドリのみ。
恐らくこの中に盗掘の犯人がいる。
天下一は盗掘事件の調査を行うことになる。
4 資産家
日野市長の紹介で水島邸を訪れた天下一。
記念館保存委員会のメンバーの1人である水島雄一郎は水島産業の会長でこの街随一の資産家である。
その水島が自室で射殺体となって発見された。
現場は本棚で入り口を塞がれており、水島は右手に拳銃を握り、右のこめかみには弾痕があった。
天下一は何者かによる殺害の可能性も視野に入れるべきと警察に進言するが、トリックという概念がないこの世界では、水島の死は自殺以外に考えられないという。
密室殺人事件の可能性もあると主張する天下一に対し、密室とは何か、本格推理とは何か、警察は全く見当もつかない。
水島の子供たちは遺産相続のことで頭がいっぱいという状況の中、天下一は捜査を開始する。
密室殺人を大きく7つのグループに分けた天下一だが、今回の事件はそのどれにも当てはまらない。
それでもちょっとしたきっかけをもとに事件の真相を暴く天下一。
果たして真犯人は誰なのか、そして本格推理という概念がないこの世界で、犯人にトリックを教えたのはいったい何者なのか。
5 小説家
水島邸事件の解決後、小説家の火田俊介を訪問した天下一。
彼は水島が殺害された前日に水島邸を訪れていたのだった。
ピラトスハウスと呼ばれている火田の屋敷には、彼の3名の書生も住んでいる。
天下一との面会中に、使いを頼んだ書生の1人からの電話に出て隣室に移動した火田だったが、間もなく隣室からは騒ぎ声が聞こえてきて、そして額に矢の刺さった火田の姿があった。
しかし間違いなく屋敷内にいるはずの犯人の姿がどこにも見つからない。
今度は人間消失事件に取り組む天下一。
そして、本格推理という概念がないこの街で、火田が『斜面館殺人事件』というタイトルの本格推理小説を書こうとしていたことを知る。
書生たちから火田の作品についてどう思うか、自分たちはどのような作品を手がけているのか聞いた天下一は、今回の事件の真相にたどり着く。
6 委員会
本格推理という概念がないこの街にもかかわらず水島と火田の事件では何らかのトリックが使われていることに違和感を覚える天下一。
ある日市長は保存委員会の残りのメンバーを一堂に集める。
そして、この中に盗掘事件の犯人がいるはずであると明言する。
そして1人ずつ殺されていく委員会のメンバーたち。
果たして犯人は誰なのか。
そして盗掘事件とのつながりは?
一体何が盗掘されたのか。
7 総評
この作品は、東野圭吾の本格推理に対する主張、そして決別表明が著わされている。
決別表明と言っても、本格推理に対する思い入れ、愛情を感じさせる内容である。
「ずっと以前、私は自分の好きな世界を作ろうとしていた。それが幸せだった。その世界が他人にとってどう見えるかということには関心がなかった。私は自分が快適に遊べる遊園地を求めていたのだ。」
「リアリティ、現代感覚、社会性。この三本柱を大切にしたいですね。でないと、これからの推理小説界を生き残っていけません。トリックや犯人当てなんてのはどうでもいいことです。」
そして以後の東野作品は大きく展開していく。