~『白馬山荘殺人事件』7つのポイント~
『白馬山荘殺人事件』は、『放課後』『卒業 雪月花殺人ゲーム』に次ぐ東野圭吾の3作目。
過去2作のような学園ミステリーではなく、冬の信州のペンションを舞台に起こる密室殺人と暗号解読に挑戦した本格推理小説です。
一年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか」という言葉を残して自殺した兄・公一。
その死に疑問を抱いた妹の女子大生・ナオコは、親友のマコトと、兄が死んだ信州・白馬のペンション「まざあ・ぐうす」を訪ねた。
常連の宿泊客たちは、奇しくも一年前と同じ。
各室に飾られたマザー・グースの歌に秘められた謎、ペンションに隠された過去とは?
暗号と密室の本格推理傑作。
さあ、『白馬山荘殺人事件』について語りましょう。
1 あらすじ
一年前の冬に信州・白馬にあるペンション「まざあ・ぐうす」で服毒死した公一。
部屋が密室であったこと、公一がノイローゼ気味であったこと、ペンションの従業員や他の客と公一の接点が見つからなかったことから、警察は公一の死を自殺と判断する。
しかし、公一からは『「マリア様が家に帰るのはいつか?」を調べてほしい』と絵葉書が届いている。
兄の自殺に納得がいかないナオコは親友であるマコトと共に「まざあぐうす」を訪れる。
「まざあ・ぐうす」の各室には「マザー・グース」の絵と歌が飾られており、それが暗号になっているのではないかと思い至る。
公一が死ぬ1年前、このペンションでは転落事故で1人の客が亡くなっていた。
そして今年も、宿泊客の1人が石橋から落ちて死んでしまう。
3年連続で起きる宿泊客の死。
果たしてこの3つの死に関連はあるのか。
マザー・グースの歌に秘められた暗号の謎とは?
ナオコとマコトは少しずつ真相に近づいていく。
2 登場人物
ナオコ
大学3年生。兄・公一の死に疑惑を抱く。
マコト
ナオコの親友。ナオコと共に事件の真相を追う。
マスター
「まざあ・ぐうす」ペンションのオーナー。
シェフ
「まざあ・ぐうす」ペンションの共同経営者。大男。
高瀬
ペンションの20歳過ぎの男性従業員。
クルミ
ペンションの20代半ばの女性従業員。
ドクター夫妻 老夫婦。
「ロンドン・ブリッジとオールド・マザー・グース」の部屋に宿泊。
芝浦夫妻
30代半ばの夫妻。「ガチョウと足長じいさん」の部屋に宿泊。
上条
30代の男性。「ミル」の部屋に宿泊。
大木
30歳前の男性。スポーツマンタイプ。「セント・ポール」の部屋に宿泊。
江波
29歳。「ジャックとジル」の部屋に宿泊。
中村・古川
20代前半の男性。「旅立ち」の部屋に宿泊。
村政警部
ペンションで起きた殺人事件を捜査。
3 密室殺人
公一の死体が発見された部屋が完全な密室であったことが公一の死が自殺であると判断された理由である。
しかし、公一は自殺ではなく誰かに殺されたと確信したナオコとマコト。
果たして犯人はどのようにして密室を作り上げたのか。
密室トリックについては図解で説明があるが、その結論には賛否両論分かれるところであろう。
4 転落死
ナオコとマコトが宿泊しているときに、宿泊客の1人が石橋から転落して死亡する。
警察は事故死と判断するが、独自で捜査していたナオコとマコトはこれが単なる事故死ではないと考える。
何故被害者は石橋へ向かったのか。
犯人はどのようにして宿泊客の死を事故死に見せかけたのか。
2年前から続く3つの死の謎がつながっていく。
5 暗号解読
各室に飾られたマザー・グースの歌が暗号になっており、どうやら公一はその謎が解けたようだ。
歌が英語で書かれていることもあり、この暗号をしっかり解こうと思ったらかなり骨が折れる。
解読はナオコとマコトに任せ、ストーリーを先に進めようとする読者も多いのではないだろうか。
マザー・グースをモチーフにした推理小説は、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』や、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』などが有名だが、当時の日本でマザー・グースを使ったのは新しい試みではないだろうか。
6 ナオコとマコト
物語序盤にちょっとした遊びが仕掛けられているところは面白い。
その仕掛けが物語上必要かどうかは別として、ちょっと驚く人もいるだろう。
性格も見た目も正反対なこの2人。
しかし見事な共同作業で公一の死の真相に迫っていく。
一見か弱そうなナオコの実は芯が強いところ。
まさにカッコイイの一言がぴったりなマコト。
この2人の探偵コンビのチームワークが面白い。
7 終盤のたたみかけ
正直、この作品は東野圭吾作品にしては全体的に弱い、という印象がぬぐえない。
若者を主人公にした本格ミステリーではあるが、密室のトリックはちょっと意見が分かれるところだし。
マザー・グースは素材としては面白いが、そこまで日本人に馴染みが無く、解読も難解なため流し読みする人も多いだろう。
登場人物の1人1人を魅力的に描く東野圭吾作品にしては珍しく、明らかに存在が薄く、ストーリー上どうしても必要なのかどうか分からないキャラクターもいる。
刑事の村政が的外れの推理をする役割ではなくきちんと探偵役を担っていることはいいのだが、この刑事の登場が物語中盤であること、あまりいい印象で書かれていないことから、犯人を特定するクライマックスのシーンも盛り上がりに欠ける。
犯人にしても、「ふーん」という印象。
犯行に至った動機もあまり深みがないような気がする。
この作品は不完全燃焼かな・・・、そう思っていたときに、様々な仕掛けが一気に発動する。
この終盤のたたみかけは爽快でテンポも良く、グッと作品に引き込まれていく。
これまでの鬱憤を一気に晴らしてくれるような展開に息を呑んでしまう。
真相の真相、真相の奥にあるものとは一体何か。
是非楽しんでいただきたい。