~『変身』7つのポイント~
『変身』は、東野圭吾18作目の作品。
事件に巻き込まれ拳銃で撃たれた青年に脳移植手術が施されます。
無事に手術は成功し青年は日常生活に戻っていきますが、少しずつ増えていく自分自身に対する違和感。
自分がこれまでの自分ではなくなっていくことを実感していきます。
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。
そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。
それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしようもない。
自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された脳の持ち主(ドナー)の正体を突き止める。
さあ、『変身』について語りましょう。
1 登場人物
成瀬純一
主人公。強盗事件に巻き込まれ頭部を銃で撃たれる。脳移植手術により一命をとりとめ、社会復帰するが・・・。
葉村恵
成瀬純一の恋人。
堂元
東和大学医学部脳神経外科教授。純一に脳移植手術を施す。
橘直子
堂元の助手。
若生
堂元の助手。
臼井悠紀夫
成瀬純一の隣人の学生。
関谷時雄
成瀬純一に移植された脳のドナー。享年22。
京極瞬介
バンバ不動産を襲撃し成瀬純一を撃った犯人。犯行後に追い詰められ、自ら心臓を撃って死亡。
京極亮子
京極瞬介の双子の妹。
番場哲夫
バンバ不動産社長。
嵯峨典子
バンバ不動産で成瀬純一がかばった少女。
嵯峨道彦
典子の父親。法律事務所を経営している弁護士。
倉田謙三
捜査一課刑事。
2 あらすじ(前編)
成瀬純一はある日訪れた不動産会社で強盗に遭遇し、少女をかばい頭部を銃で撃たれた。
奇蹟的に命をとりとめ、3週間の昏睡状態から目覚めた純一。
しかし自分自身に対しどこか違和感を覚える。
ある夜、純一は病院内で自分のものと思われる脳が入ったガラス瓶を発見する。
そして、自分が奇蹟的な確率で適合者が見つかったため、世界初の成人脳移植手術を受けたということを知る。
また、倉田刑事から純一を撃った犯人・京極瞬介が自殺したことを聞かされる。
無事退院した純一だが、恋人の葉村恵に抱く感情や、仕事場に対する気持ちに変化が生じていることに気づく。
そして今まで通りに絵が描けなくなり、その代わりに聴覚が鋭くなってきていることを感じ始める。
3 あらすじ(中編)
純一の性格は日々変わっていった。
職場の先輩と喧嘩をして酒瓶で殴ろうとするなど、これまでの純一では考えられないような行動をとるようになる。
隣人の学生に対しては強烈な殺意を抱きもした。
異常を感じた純一は堂元を訪れ、この変化は脳移植手術による副作用ではないかと疑問をぶつけ、ドナーについて言及する。
堂元の返答は到底純一が納得できるものではなく、純一は堂元の隙を見てドナーの情報を手に入れる。
ドナーが関谷時雄であることを知った純一は、時雄の父を訪ねる。
そこで聞いた関谷時雄の性格や嗜好は今の自分とあまりにも違いすぎたため、純一は新たな疑いを抱く。
4 あらすじ(後編)
自分のドナーが関谷時雄ではないと確信した純一。
職場でも孤立し、恋人である葉村恵も純一の元を去ってしまう。
酒場で心地良く聞いていたピアノ演奏を邪魔された純一は、客に暴行を振るい逮捕される。
釈放に尽力した嵯峨弁護士に招待された純一は、橘直子とともに嵯峨の自宅を訪れる。
純一にかばわれた嵯峨典子だが、純一を見てこの純一は助けてくれた純一とは別人であると告げる。
嵯峨宅にて典子が弾くピアノの音を敏感に感じる純一。
そして、京極瞬介も音大出身で音楽家志望だったことを知る。
自分のドナーが実は犯人である京極瞬介ではないかと仮説を立てた純一は、京極瞬介の双子の妹・亮子と会う。
純一が亮子に感じたシンパシー、亮子が純一に感じたシンパシーは、純一のドナーが京極瞬介であると確信を持つのに十分なものだった。
純一の脳はどんどん京極瞬介のものに蝕まれていく。
近所でうるさく吠える犬を虐殺する純一。
そして亮子に似た橘直子に心を寄せ始めていることを自覚する純一。
しかし橘直子の行動に不信を抱いた純一は橘直子を絞殺する。
戻ってきた葉村恵とともに身を隠す純一は、恵の裸体だけは描けるようになってきていた。
自らの行く末を覚悟している純一に何者かが襲い掛かる。
それは恵の仕業だと思った純一は恵をも殺しかけるが、すんでのところで自分を取り戻す。
そして、自分を取り戻しに行くと恵に告げ、純一は堂元の元を訪れる。
5 成瀬純一
産業機器メーカーの工場で務める24歳の青年。
両親とも他界したため美大への進学はあきらめるが、今でも休日は絵を描いて過ごしている。
気弱で人前に出るのが苦手、自分の意見も言えなく、平凡に生きていたが、脳移植手術後に性格がどんどん変貌していく。
6 葉村恵
成瀬純一の恋人。
デザイナーの才能が無いことに気づきその道を断念、画材ショップで働く。
背が高くそばかすがある。
純一の変貌に敏感に気付き、恐怖を感じる。
純一のことを心から愛しているが、純一の変化についていけず逃げ出してしまう。
7 総評
純一の心がどんどん支配され、自分自身を失っていく恐怖。
普段は気弱でおとなしい純一が、自分を失わないため、自分を取り戻すために必死になる姿が胸を打つ。
何より、純一が必死になればなるほど人格が変貌していくところが切ない。
一人称も「僕」から「俺」に変わっていき、それに伴い文体も強くなっていく。
純一の変化と苦悩が徐々に大きくなっていることが巧みに表現されており、今後純一はどうなってしまうのか、先の展開が気になっていく。
純一と、純一を思う恵の気持ちが純粋すぎるだけに、純一の変貌が切ない。
地味ながらも微笑ましいカップルだった2人を襲う悲劇。
何とか2人の幸せは守ってあげたいと思う読者も多いだろう。
恵の純一に対する献身的な愛に心が揺さぶられる。
果たして純一と恵の未来はどうなるのか。
そして、人格が変わっても体が普通に動いていればそれは生きていると言えるのであろうか。
人の心と人の命について考えさせられる作品である。