~『眠りの森』7つのポイント~
『眠りの森』は、東野圭吾10作目の作品。
人気キャラクター・加賀恭一郎シリーズの第2作。
刑事・加賀恭一郎としては初めての作品です。
捜査一課で勤務する刑事・加賀恭一郎が、有名バレエ団で起きた殺人事件の真相に迫ります。
バレエ団の厳しくシビアでひたむきな世界と、加賀の恋模様が描かれた秀作です。
美貌のバレリーナが男を殺したのは、ほんとうに正当防衛だったのか?
完璧な踊りを求めて一途にけいこに励む高柳バレエ団のプリマたち。
美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。
若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡美緒に魅かれ、事件の真相に肉迫する。
華やかな舞台の裏の悲しいダンサーの悲恋物語。
さあ、『眠りの森』について語りましょう。
1 あらすじ
有名バレエ団「高柳バレエ団」の事務所で男性が殺害された。
バレエ団の事務所に侵入した男を、団のバレリーナである葉瑠子が殺してしまったのだ。
葉瑠子は強盗に襲われた、と正当防衛を主張するが、侵入した男・風間が何故バレエ団に強盗に入ったのか、バレエ団とはどのような接点があるのかが分からない。
捜査が難航しているときに、次は団のバレエ・マスターが稽古中に毒殺された。
果たして犯人は、何故、どのような方法でこの毒殺を実行したのだろうか。
果たして風間の事件とこの事件にはかかわりはあるのだろうか。
そして、独自に捜査を進めようとした団のメンバーが襲われる。
刑事となった加賀恭一郎は、事件の謎に迫りながら、バレエ団のダンサー・浅岡美緒に心魅かれていく。
2 登場人物
加賀恭一郎
捜査一課の若手刑事。
浅岡美緒
高柳バレエ団のダンサー。
高柳静子
高柳バレエ団の経営者。
高柳亜希子
高柳バレエ団のプリマ。高柳静子の養子。
梶田康成
高柳バレエ団のバレエ・マスター。演出も振付も行う。第二の被害者。
斎藤葉瑠子
高柳バレエ団のダンサー。美緒の幼馴染。正当防衛で風間を殺してしまう。
柳生講介
高柳バレエ団のダンサー。葉瑠子の恋人。独自に捜査をする。
森井靖子
高柳バレエ団のダンサー。
紺野健彦
高柳バレエ団のダンサー。
中野妙子
高柳バレエ団のミストレス(女性教師)。
風間利之
画家の卵。高柳バレエ団の事務所に侵入し殺害される。
3 第一の事件
画家の卵である風間利之が高柳バレエ団の事務所に侵入し殺害される。
高柳バレエ団のダンサー・葉瑠子は、強盗に襲われそうになったため無我夢中でそばにあった花瓶を振り回した、と正当防衛を主張する。
しかし、風間が何故バレエ団の事務所に強盗に入ったのか、動機が全く分からない。
また、風間とバレエ団の接点も見つからない。
風間がバレエ団を訪れた理由が分からない限り、葉瑠子の証言も全てを信用することができず、捜査は進んでいく。
やがて、風間が1年前の高柳バレエ団の公園チケットを持っていたこと、風間がニューヨークにいた時期に男性バレエ団員もニューヨークにいたことが分かった。
しかし、その事実と葉瑠子が風間を殺害するに至った事件とはどうしてもつながらない。
果たして、風間とバレエ団の接点とは?
何故風間はバレエ団を訪れたのか?
4 第二の事件
風間とバレエ団の接点が見つからない中、バレエ団のバレエ・マスター・梶田が稽古中に毒殺される。
状況から、犯人はバレエ団関係者の中にいるとしか考えられない。
しかし、衆人環視の中、どうやって梶田は殺害されたのか。
また、梶田が殺害された動機は何か。
風間の事件との関連はあるのか。
捜査はさらに難航していく。
5 浅岡美緒
高柳バレエ団のダンサーで、第一の事件の被疑者・葉瑠子の幼馴染。
加賀恭一郎は捜査を続けていくうちに、彼女に心魅かれていく。
他のダンサーはバレエのために食事制限なども行っているが、彼女は元から少食である。
時折意識が飛んで倒れてしまいそうになることもある。
それでも舞台上で見せる彼女の踊りは、加賀の心を鷲掴みにした。
物語はバレエ団で起きた事件の謎解きが基本線ではあるが、加賀と美緒の関係がどのようになっていくのかも楽しむことができる。
サスペンスと恋愛が絶妙にミックスされながら、ストーリーは展開していく。
6 加賀恭一郎
『卒業 雪月花殺人ゲーム』で登場した加賀恭一郎が刑事となって帰ってきた。
『卒業~』では大学卒業後は教師になると宣言していた加賀。
実際に卒業後に中学の教師になったのだが、何一つ生徒のためにしてやれなかったと、教師を辞め刑事に転職したとのこと。
『卒業~』に登場していた沙都子が、名前こそ出てこないものの、学生時代の加賀のガールフレンドとして話題に出てくることも、読者にとっては楽しみの1つかもしれない。
そもそも、加賀を刑事としてこの作品に登場させたのは、当初は作者・東野圭吾のいたずらだったらしいが、それがここまでの人気シリーズに成長していくのだから、ファンにとっては嬉しいいたずらである。
加賀は事件の真相に迫りながら、美緒に思いを寄せていく。
捜査中でも美緒に寄り添い、美緒が倒れたら誰よりも先に駆けつけ、美緒と一緒に(葉瑠子の甥の面倒を見ながらだが)西武球場で野球を観戦し、美緒がどこかに連れて行って欲しいといえば公園に行っている。
少しずつ縮まる2人の距離。
果たして加賀と美緒の関係はどのように進展していくのだろうか。
寡黙で冷静、鋭い洞察力と観察力を持ち、優しく思いやりのある加賀の恋の行方が気になってしまう。
7 事件の真相
これまでの作品は、どちらかというとトリックの解明を重視していた傾向にあるが、この作品は細かいトリックよりも、その裏にある人間模様がキーとなっている。
バレエというあまり馴染みの無い世界を舞台にしながらも、読者がその世界に入り込めないということにはならないのは流石。
むしろ、バレエの世界の厳しさを知ることができ、そしてダンサーたちの真剣さを感じ取ることができる。
途中、ミスリードを導くためか、捜査状況が芳しく進まないところなど若干ダレてしまう部分もある。
しかし、終盤のたたみかけ、事件の真相が判明したときの衝撃は、中盤のダレなどをすっかり忘れさせてくれる。
加賀と美緒の恋愛がどのように進んでいくのかが気になるところでもあり、読者はどんどんと物語に引き込まれていく。
そして哀しく切ない事件の真相と物語の結末。
最後の一行で感動のとどめが刺される!