~『宿命』7つのポイント~
『宿命』は、東野圭吾15作目の作品。
小さな頃から因縁のある2名が、片方は刑事、もう片方は殺人事件の容疑者として再び出会います。
高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。
男の前に十年ぶりに現れたのは学生時代のライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。
刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果すとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される。
さあ、『宿命』について語りましょう。
1 あらすじ
主人公・和倉勇作は、小学校5年生の時に瓜生晃彦と同級生になる。
これまで成績優秀、スポーツ万能だった勇作だが、晃彦には何をやっても勝てなかった。
中学、高校と勇作にとっては屈辱の日々が続く。
そのような中で出会った美佐子と、勇作は甘い恋に落ちる。
しかし幸せの日々は長くは続かない。
勇作は目指していた医者への道をあきらめなければならなくなり、美佐子とも別れ、警察官となる。
ある日、電機メーカーUR電算で起こった殺人事件の担当となった勇作は、先代社長の息子である晃彦と再会する。
そして、あろうことか晃彦の妻となっている美佐子とも再会を果たすのであった。
これまで何をやっても晃彦に勝てなかった勇作だが、この事件の犯人は晃彦であると確信を持っている。
宿命の二人の宿命の対決の行方はいかに。
そして二人の本当の宿命とは?
2 登場人物
和倉勇作
主人公。医者への道をあきらめ警察官となる。
瓜生晃彦
勇作の幼少期からの宿命のライバル。大学病院で助手をしている。
瓜生美佐子
晃彦の妻。勇作の初恋の相手。
瓜生直明
UR電算前社長。晃彦の父。
瓜生亜耶子
直明の後妻。晃彦とは義理の関係。
瓜生弘昌
直明の次男。亜耶子の実子。
瓜生園子
直明の長女。亜耶子の実子。
内田澄江
瓜生家の家政婦。
須貝正清
UR電算の新社長。
松村顕治
UR電算常務。直明の腹心の部下。
尾藤高久
UR電算勤務。直明の元秘書。
江島壮介
美佐子の父。
サナエ
レンガ病院の入院患者。
3 和倉勇作
幼少期にレンガ病院で会ったサナエのことが気になっていた勇作。
サナエの死を悲しむが、その時に出会っていたのが瓜生晃彦だった。
それまで勉強も運動も1番だった勇作だが、5年生の時に晃彦と同じクラスになってからはその座を晃彦に奪われる。
中学生になっても晃彦に勝てなかった勇作は、何とか晃彦を負かそうと、晃彦と同じ進路を選ぶ。
それは医学の道だった。
レンガ病院に立ち寄ることが多かった勇作は、父の見舞いに来ていた美佐子と出会い恋に落ちる。
そんな時、警察官だった父が倒れ、勇作は医師への道をあきらめざるを得なくなった。
そして父と同じ警察官の道を選び、美佐子に別れを告げる。
それから数年、勇作はUR電算で起きた殺人事件の担当となるが、そこで晃彦と再会し、また、晃彦の妻となっていた美佐子とも再会を果たす。
長年のライバルに初恋の相手まで奪われた形になった勇作だが、殺人事件の犯人は晃彦ではないかと疑っている。
合わせて、被害者の遺品にレンガ病院の写真を見つけた勇作は、今回の事件とサナエの死に関係があると確信を持つ。
ライバルに対する思い、初恋の相手に対する思いに揺れながら、勇作は事件の解決、そしてUR電算に隠された謎の解明に挑む。
4 瓜生晃彦
勇作のライバル。
UR電算前社長・瓜生直明の息子でありながら、会社の後継ではなく医学への道を志す。
大学病院の助手として勤める晃彦は、家族の誰にも、妻である美佐子にも心を開くことはない。
事件の捜査が進んでいく中、晃彦は不審な行動を繰り返す。
果たして、晃彦は事件にどのようにかかわっているのだろうか。
晃彦の行動に隠された謎とは一体?
5 瓜生美佐子
美佐子は長年「糸」を感じている。
父・壮介の好待遇すぎる入院とその後のUR電算への再就職、自身のUR電算への就職、そして晃彦との出会い、結婚。
しかし晃彦との結婚生活を送っても、美佐子は晃彦に対し、かつて勇作に感じたような愛情を感じることができなかった。
晃彦のことを理解しようと努める美佐子だが、晃彦は心を打ち明けることはない。
美佐子は晃彦との離婚も考えだすが、その矢先に起きたUR電算の殺人事件。
そしてかつて愛した勇作との再会。
勇作は事件の犯人として晃彦を疑っている。
晃彦の不審な動きを感じている美佐子の心は大きく揺れ動く。
6 事件の真相
須貝正清が殺された。
凶器は瓜生直明の遺品に合ったボウガン。
警察は弘昌を逮捕するが、勇作や美佐子は真相はそこにはないと確信している。
晃彦の動きには明らかに不自然なところがあるからだ。
警察の捜査は難航するが少しずつ事実が判明していく。
果たして殺人事件の真相とは?
7 最後の一行
作者・東野圭吾はこの作品について次のように語っている。
「犯人は誰か、どういうトリックか―
手品を駆使したそういう謎もいいけれど、もっと別のタイプの意外性を創造した
いと思いました。
このような題名をつけたのも、そういう意図のあらわれです。
そして今回一番気に入っている意外性は、ラストの一行にあります。
だからといって、それを先に読まないで下さいね」
一番気に入っている意外性であるラスト一行にいかにもっていくか綿密な計算を立て、構想に3か月、執筆に2か月をかけたとのことである。
殺人事件の謎解きも十分に楽しめるものであるが、それ以上に2人の宿命の謎、真実が明らかになるところは圧巻。
これまでの、トリックに重きを置いた作品とは異なり、登場人物1人1人の背景が見事に描写されており、そこに様々な事象の真相があるため読者はどんどん引き込まれていく。
東野圭吾のターニングポイントとなった作品の1つといっても良いのではないだろうか。